カジノ事業からの反社会的勢力排除(6)

式会社エス・ピー・ネットワーク 取締役 主席研究員 芳賀 恒人(会社および著者の紹介は巻末を参照)

本コラムにおいては、カジノ事業における「関与する個人・法人」たる免許申請者は、自身の厳格な「清廉潔癖性と遵法性」を担保するためには、暴力団と直接・間接に関係を持つと考えられる反社会的勢力を排除(関係を持たない、その影響力を排除する、その活動を助長しない等)すべきとの立場から、「最新の実態をふまえた本質論から導かれる反社会的勢力」とまで関係がないことを、継続的に証明する努力をすべきではないかとの問題提起をしています。

ここからは、この反社会的勢力を広く厳格に捉えるスタンスから、主に免許申請者がどのように反社会的勢力を見極めていくべきか、反社チェックの実務について取り上げていきたいと思います。

1 反社チェックに必要なスタンス

さて、反社チェックの主要な手法としてはデータベースおよびそれを活用したスクリーニングがあげられますが、その実務上の問題としては、データベース自体の限界と反社会的勢力の定義のあいまいさがあげられます。
そもそも、反社会的勢力排除の取組みにおいては、反社会的勢力の範囲(定義)が明確でなく、あいまいなままとなっていることが、その難しさの根本にあるのは疑いのないところです。

では、その範囲(定義)さえ明確に線引きがなされ、それが社会全体での共通認識となれば、(データベースの限界は別として)社会からの反社会的勢力排除は実現されるのでしょうか。

答えは「否」です。
そして、極論すれば、「事細かに詳細まで定義すべきではない」と言えるのです。

本コラムでは、反社会的勢力を「暴力団等と何らかの関係が疑われ、最終的に『関係を持つべきでない相手』と個別に見極めて、排除していくべきもの」と定義しましたが、それは、そもそもが「本質的にグレーな存在」である実態を踏まえたものです。

一方で、反社会的勢力の範囲を詳細に定義することが可能になれば、データベースの収集範囲が明確となり、その結果、データベースの精度が向上し、排除対象が明確になり、暴排条項該当への属性立証も円滑に進むであろうことは容易に想像できます。

しかし、そこに落とし穴が潜んでいるのです。

反社会的勢力の範囲の明確化は、反社会的勢力側から見れば、偽装脱退などの「暴力団対策法逃れ」と同様の構図により、「反社会的勢力逃れ」をすすめればよいだけでの話となります。
社会のあらゆる局面で、排除対象が明確になっていることで、データベースに登録されている者を、あえて契約や取引の当事者とするはずもなく、その結果、偽名・借名・なりすましなどの「真の受益者」の隠ぺいの手口を高度化させることになります。
言い換えれば、その存在の不透明化・潜在化を強力に推し進めることになります。したがって、実質的な契約や取引の相手である「真の受益者」から反社会的勢力を排除することは、これまで以上に困難な作業となっていくのは明らかです。

つまり、反社会的勢力の資金源を断つどころか、逆に、潜在化する彼らを見抜けず、結果的に彼らの活動を助長することになりかねませんし、結局はその見極めの難易度があがる分だけ、自らの首を絞める状況に追い込まれることになるでしょう。

さらに、反社会的勢力の範囲の明確化に潜む問題を、事業者側から見た場合、排除すべき対象が明確になることで、「それに該当するか」といった「点(境目)」に意識や関心が集中することになり、逆に、反社チェックの精度が下がる懸念があります。

そもそも、反社会的勢力を見極める作業(反社チェック)とは、第5回でも指摘した通り、反社会的勢力の不透明化・潜在化の現状にあっては、当該対象者とつながる関係者の拡がりの状況や「真の受益者」の特定といった、その全体像を「面」で捉えることを通して、その「点」の本来の属性を導き出す作業です(KYCからKYCCへ)。

表面的な属性では問題がないと思われる「点」が、「面」の一部として背後に暴力団等と何らかの関係がうかがわれることをもって、それを反社会的勢力として「関係を持つべきでない」排除すべき対象と位置付けていく一連の作業でもあります。

その境目である「点」だけいくら調べても、反社会的勢力であると見抜くことは困難であり(さらに、今後その困難度合が増していくことが予想される以上)、全体像を見ようとしない反社チェックであれば、表面的・形式的な実務に堕する可能性が高くなると思われます。

2 カジノ事業者に求められる「商流からの暴排」

確かに、反社会的勢力の範囲を明確にすることで、表面的・形式的な暴力団排除・反社会的勢力排除の実現は可能です。
しかしながらそうすべきでなく、一方で、実務に限界がある以上、また、カジノ事業も営利を目的とする事業活動である以上、身の丈にあった最低限のチェックで良しとする考え方もあることは否定しません。

明確にしておきたいことは、カジノ事業者に求められているのは、暴力団対策法によって存在が認められた暴力団や当局が認定した暴力団員等、あるいは、「現時点で認識されている反社会的勢力」「実務的に捕捉可能な反社会的勢力」のみの排除にとどまるのではなく、「真の受益者」およびそこに直接つながる「暴力団的なもの」「本質的にグレーな存在である反社会的勢力」の排除であるはずだということです。

カジノ事業の健全性については、社会の目線が、そもそも最初から高いレベルのものを求めていることが明らかである以上、その収益がどのような形であっても反社会的勢力に還流してはならないのです。
そのような状況の中で、反社会的勢力の範囲を明確にすることが、直接的に相手を利することにつながり、自らの首を絞めるとともに、自らの「目利き力」の低下を招くものだとしたら、これほど恐ろしいことはないのです。

そのうえで、カジノ事業における免許申請者に対しては、自らの健全性だけでなく、その関連先(自らが関係する商流に位置する多くの事業者)の健全性にも十分な注意を払う必要があり、(データベースだけに頼らない)厳格な管理が求められているとも言えます。
この考え方を、本コラムでは、「商流からの暴排」と呼ぶことにします。

さて、反社会的勢力の事業者への侵入には必ず仲介者となってしまう「人(役職員)」が存在するように、反社会的勢力の関与するスキームには「媒介者」が存在します。
したがって、反社会的勢力との「接点」になりうる(本来は善良な「関連先」である)「媒介者」の、自らと同様の健全な「暴排意識」と「リスクセンス」に基づく「健全な業務の遂行」なくして、自らの健全性を担保出来ないとも言えるのです。

最近の情報漏えいリスクの高まりに伴う情報管理の厳格化の流れにおいては、委託先だけでなく再委託先、さらにその先の管理を「自らのもの」としていかにして厳格に行っていくかがポイントとなっていますが、正に、同様の文脈で、自らの商流の健全性を担保するための取組み、取引先の厳格な管理が求められています。

反社会的勢力の不透明化・巧妙化の現実にあっては、事業者は、形式的・表面的なチェックでは到底太刀打ちできず、データベースのみに依存したり、銀行や取引先など他者の取組みにもっぱら依存するのではなく、より自律的・自立的に、反社チェックや反社会的勢力排除の取組みがなされるべきなのです。


■ 会社紹介

株式会社エス・ピー・ネットワーク

警視庁・道府県警の出身者をはじめ、企業危機管理に伴う法務・労務・財務・広報やサイバーセキュリティの専門家で構成されるクライシス・リスクマネジメント専門企業。
反社会的勢力への実務対応から企業不祥事等に伴う緊急対策支援に至る「直面する危機(クライシス)」対策に数多くの実績を有し、実践から導かれた理論に基づき「潜在する危機(リスク)」の発現を未然防止するためのコンサルティングと人的支援を展開する。
従来の枠に留まらない、危機管理的視点からの実践的なコンプライアンス態勢及び内部牽制態勢の構築を多くの企業で手がける。時代の流れを先取りした企業危機管理論には、上場企業や株式公開を目指す企業の他、証券会社や監査法人からの支持も厚い。

株式会社エス・ピー・ネットワークのHP
株式会社エス・ピー・ネットワークHP 暴排トピックス(毎月更新)

■ 著者

芳賀 恒人 Tsunehito Haga
東京大学経済学部卒業。大手損害保険会社を経て、エス・ピー・ネットワーク入社。現在、取締役 主席研究員。

企業のリスク抽出・リスク分析ならびにビジネスコンプライアンスを中心とする内部統制システム構築を専門分野とするリスクアナリストとして、数多くの企業危機管理に関する事例を手がけるほか、大学での講義など幅広く活躍。
とりわけ、企業の反社会的勢力排除の内部統制システムの構築・運用支援、排除計画の策定・排除実務支援、犯罪対策閣僚会議下の「暴力団取締り等総合対策ワーキングチーム」での報告、反社会的勢力排除に向けた企業の取組みに関する各種コラムの執筆・講演、eラーニング教材の監修など、反社会的勢力排除の分野を中心に数多くの実績を有する。

▼ 主な著作
「暴力団排除条例ガイドブック」(共著)
「ミドルクライシス~内部統制を活用した企業危機管理vol.1.反社会的勢力からの隔絶」
「反社会的勢力排除の『超』実践ガイドブック」
「金融機関営業店のためのVS反社マニュアル」

 

カジノIRジャパン

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